江戸後期に滝沢（曲亭）馬琴が著して大人気を得た長編伝奇小説「南総里見八犬伝」の八犬士を描いた８枚揃である。武者絵の得意な国芳だけに１枚に１人を大きく描き迫力ある武者絵に仕上げているが、背景は２枚続きで、同一場面に登場した２人を扱った作品もある。八犬士は安房里見家の伏姫と聖犬八房の霊的な結合で生まれるが、別々に孤児として育ち、やがて「犬」の字の姓とそれぞれが持つ聖玉によって、悪との戦いのなかで次第にめぐり会い、助け合って活躍する。

犬江親兵衛であるが、いまだ四歳であり。蛋崎照文の案内で、祖母と安房へ向かう途中、悪者に襲われる場面である。親兵衛は幼名を真八といい、左の拳を握って生まれたが、後に手を開くと聖玉が出る。親兵衛は下総国の船主山林房八・沼藺の子、親に死に別れて祖母・妙真に養われる。安房への途中でのこの場面では、伏姫の神助により、姿をかくす。讃には、「父子一体の義によりて親を添えし」とあり、親兵衛（真八）を背負って悪者から守っているのは、父としている。

武者絵の第一人者である歌川国芳が滝沢馬琴の人気長編小説の主人公八人を描いた揃え物。物語の武者絵として迫力ある見事な作品であり、摺り保存とも良好な８枚が揃っており貴重。八犬士の活躍は、江戸の子どもたちにも知られていた。