「東風俗福つくし」とシリーズ名にあり、東京の明治中期の新風俗から、家族の福々しい場面を設定、「ふく」の付く言葉をあてている。福のつく言葉には造語やこじつけ、さらに同音の「吹く」や「服」も見られるが、当時の幸福（心の幸せ）で裕福（金持ち）な家庭の姿がうかがえる。

「ふく引」だが、正月に華族の御殿で行われた豪華な福引きの場面である。床の間には巨大な鏡餅が飾られ、その前に当家の奥方が座り、回りを招かれた美女が取り囲んでいる。手前の美女は、公家などが用いた有職文様の一つである藤の着物を着ている。その左後方に、福引の景品である反物などが置かれている。奥方の側に見えるひもの先端を景品に結び、ひもを交叉させてどの景品か分からないようにして、もう一方の先端を引いて、当たりを楽しんだ。中央に立つ女性は、すりこぎが当たって喜んでいるようだ。座敷には燭台が用意されている。勝川春潮に、同じテーマの作品がある。

明治中期の母子を中心とする家庭風俗と、そのなかでの幸福感が読みとれる作品である。母と子の衣装や室内調度にも、江戸の継続だけでなく近代化の新しい要素がうかがえる。