「東風俗福つくし」とシリーズ名にあり、東京の明治中期の新風俗から、家族の福々しい場面を設定、「ふく」の付く言葉をあてている。福のつく言葉には造語やこじつけ、さらに同音の「吹く」や「服」も見られるが、当時の幸福（心の幸せ）で裕福（金持ち）な家庭の姿がうかがえる。

「ふくべ」とは、ひょうたんをさし、柵の上からひょうたんが下がっている。中国ではひょうたんは夏の五毒を防ぐとか、神仙の持ち物で長寿の象徴とされた。夏の終り、団扇を手に洗い髪の美人が何やら物思いにふけっており、小川で釜を洗う手を休めて母が振り返っている。一面に青田が広がる農村で、松の彼方に茅葺き屋根が見えている。

明治中期の母子を中心とする家庭風俗と、そのなかでの幸福感が読みとれる作品である。母と子の衣装や室内調度にも、江戸の継続だけでなく近代化の新しい要素がうかがえる。