
真っ赤な体にきりりとした表情、この元気な男の子はだれでしょう? そう、昔話でもおなじみの「金太郎」です。平安時代の武将、坂田金時の子ども時代の名前で、怪童丸とも呼ばれます。童謡「金太郎」でも、熊にまたがり馬のけいこをする様子や、動物とすもうを取る元気な姿が歌われています。
鬼を退治した桃太郎、亀を助けた浦島太郎など、昔話にはいろいろなキャラクターが登場します。中でも金太郎は江戸の子どもの「ヒーロー」でした。この絵でも、金太郎は勢いよく滝を登る鯉を軽々とだきあげ、怪力ぶりを発揮しています。
古くから魔除けの色とされた「赤」色の肌をもつ金太郎は、子どもを病気から守る力があると考えられてきました。また中国には竜門という滝を登った鯉が竜になり、天に登るとの伝説があるように、鯉も縁起の良いものです。今もたんごの節句には、はためく鯉のぼりを見ることができます。
この絵も「金太郎のように元気に育て」と、家族が子どもに買ってあげたのでしょう。子を思う親の温かな心は、今も昔も変わらないのですね。

坂田怪童丸(歌川国芳)弘化2-3年(1845-46)

大人向け解説
江戸っ子に人気の武者絵
りりしい英雄たちの物語は、血気盛んな江戸っ子に大人気でした。現代の価格に換算すると数百円程度でも買えたというリーズナブルな浮世絵版画の主題としても、武者絵は好まれました。
中でも本図の作者、歌川国芳(1797~1861)は武将の絵が巧みで、「武者絵の国芳」の異名も伝わります。デザイン性が高くユーモアあふれる作風で、近年特に人気が高まっています。
絵の左下には怪童丸の逸話として、足柄山の山姥が産んだ子どもが成長し、坂田金時と名乗り四天王の一人として名をとどろかせ、その後は足柄山に退隠した、との物語が記されています。武運の誉れ高い金太郎に、江戸の親御さんは「理想の子ども」像を重ねていたのでしょう。