No.4
藤澤紫先生浮世絵と遊ぼう
何びきいるのかな?

ぎょろりとにらむ大きな目、にやりと笑う真っ赤な口もと。暗い部屋の中にとつじょかび上がる大きな頭は、まるでねこ妖怪ようかいのよう。

でも、よく見ると何かに気づきませんか? この大きな顔は、大小の猫と、猫にちなむ道具で出来ているのです。数えると、少なくとも9ひきの猫が。まるで、「おしくらまんじゅう」遊びをしているようですね。

これは、江戸えど時代に流行した「め絵」と呼ばれる絵です。そのユニークな発想は、まるでパズルのよう、絵師と私たちとの知恵ちえくらべです。

中でも大きな猫は大人のようです。三毛猫みけねこは多くがめすなので、きっとお母さんですね。小さな猫はその子ども。わが子を優しくだく姿に、深い母の愛情を感じます。目玉はすず、口元は絹の首輪、いずれもおしゃれな「猫グッズ」でした。

実はこの場面、江戸時代に流行した歌舞伎かぶきに登場する、とある「化け猫」をイメージしています。暑い暑い江戸の夏、この時期には特に、背筋がひやりとするようなおしばいや怪談かいだんが好まれました。この絵を見た江戸の子どもも、最初はびっくり、そして「からくり」に気づいて、大笑いしたのではないでしょうか。

まるで猫のパズルのよう

五拾三次之内ごじゅうさんつぎのうち猫之怪(歌川芳藤)嘉永かえい元年がんねん-2年頃(1848-49頃)

大人向け解説

おもちゃ絵で知られた芳藤

「おもちゃ絵芳藤」の異名を持つ歌川芳藤(1828~87)は、江戸後期から明治期にかけて活躍した人気浮世絵師。切り取って遊ぶ「玩具おもちゃ絵」や、動物をキャラクター化した戯画で、子どもにも大人気でした。
師匠は、同じく戯画を究めた歌川国芳。「め絵」と呼ばれるだまし絵の演出も国芳ゆずりのテクニックです。
西洋ではいち早く、16世紀のジュゼッペ・アルチンボルドらが、野菜や花を組み合わせ貴族の肖像を描いています。ひょっとしたら、このような情報が海を渡り、好奇心旺盛な浮世絵師を刺激したのかもしれません。
人気画家に求められる発想力とエンターテインメント性は、万国共通なのかもしれませんね。