No.6
藤澤紫先生浮世絵と遊ぼう
江戸のペット事情

あなたはねこ派? それとも犬派? 今、日本は空前の猫ブーム。実は、江戸えど時代にも猫ブームがあり、浮世絵うきよえにもたくさん登場します。

女の子がお姉さんの背に乗って、軒先のきさきの猫にちょっかいを出しています。赤い布の首輪をつけているので、この家の飼い猫なのでしょう。びっくりして飼い主を見ています。梅の木にとまるウグイスをねらうトラ猫を、女の子が追いはらっているのです。

女の子が持っているのは「はじき猿」というおもちゃ。さるの人形を棒につけ、竹のばねで上下させて遊びます。人形は布製なので、猫も痛くはありません。かわいいペットへの気づかいが感じられますね。

日本に猫が広まったのは奈良時代ごろ。中国から書物を船で運ぶ際に、ネズミなどにかじられないよういっしょに輸入されたと言います。浮世絵にもネズミよけのための「猫絵」があり、猫は家を守る働き者でした。寒い時期には湯たんぽ代わりにだっこしたとも言われます。

筆者が先日旅したドイツでも、猫は1番人気のペットで、日本と同じく「猫カフェ」もありました。家庭内で飼えて都市生活にも適した猫は、今も昔も人の良きパートナーとして愛されています。

トラ猫と女の子

浮世二十四好うきよにじゅうしこう 陽香ようきょう渓斎英泉けいさいえいせん)天保頃(1830-44頃)

大人向け解説

中国故事をパロディーに

どこかコミカルなこの作品、実は中国の有名な故事のパロディーなのです。「二十四孝」という物語に登場する、人食い虎から命をかけて父を守った孝行者の「楊香ようこう」をモデルにしています。
「シッシッ」と追い払う少女に観念し、うぐいす狩りを諦めた猫を、楊香ようこうの孝行心にうたれて退散した虎の逸話に「こじつけた」絵なのだと、子どもにも分かりやすいように文章で説明を加えています。
よく見ると、猫はトラ柄、尻尾も虎のように長くて立派です。床には鳥の形の玩具もあります。画面の隅々にまで、絵師はとびきりのユーモア精神を盛り込んでいます。それを見つけるのも、浮世絵の大きな楽しみなのかもしれませんね。