
ぽぴん、ぽぺん、ぽっぺん、びいどろ…どれも楽しそうなひびきですね。実はこれらはすべて、江戸時代に流行した音の出るおもちゃの名前なのです。この絵のように、フラスコのような形をしています。軽く息を吸ったりはいたりすると、空気の出入りによってポコンとかわいい音が鳴ります。その音にならって、ぽっぺんなどと呼ばれました。
本図の子どもも、ほしかった「ぽっぺん」を買ってもらえたようで、うれしそうですね。素材はガラス(江戸時代にはビードロやギヤマンなどと呼ばれました)で、底はとくにうすく、せんさいなおもちゃです。
にもかかわらず、この子はずいぶんとごうかいにふき鳴らしています。タイトルに「さわき好」とあるように、にぎやかなことが大好きなのでしょう。左の女性も、はじめは「上手ね」とほめていたのかもしれません。でも余りのうるささに、こまっているようです。「そろそろやめてくれないかしら?」と言いたそうな表情が、コミカルですね。
ぽっぺんの音は、やっかいな物事を追いはらう効果があるともされました。ひょっとしたらこの子も、ぽっぺんのお礼に、何か願いをこめているのかもしれません。みなさんも、もし「ぽっぺん」で遊ぶ機会があったら、やさしく鳴らしてみてくださいね。

当世好物八景 さわき好(喜多川歌麿)享和頃(1801-04頃)

大人向け解説
あなたは何がお好き?
恋に憧れるかれんな少女、新たな恋に悩む妖艶な既婚女性、子どもに愛を注ぐ母親。国内外を問わず人気の高い美人画の名手、喜多川歌麿(1753~1806年)は、女性のさまざまな感情を豊かに描き分けます。
「当世好物八景」は、8点の揃物です。2人の人物の半身像を巧みに組み合わせた構図は迫力たっぷりで、今も新鮮です。本図のほか、同様に女性と子どもを描く「出好」、「もの好」「子供好」の3点と、むつまじい男女を描いた「さけ好」、「はなし好」、「たのしみ好」、「馳走好」の4点です。
お出掛け好きのお母さん、妹を溺愛するお姉さん、話し好きの恋人同士など、その姿はみな幸せそうです。皆さんも好きなもの、好きなことに触れる時間を、大切になさってくださいね。