No.32
藤澤紫先生浮世絵と遊ぼう
「ぽっぺん」を鳴らせ!

ぽぴん、ぽぺん、ぽっぺん、びいどろ…どれも楽しそうなひびきですね。実はこれらはすべて、江戸えど時代に流行した音の出るおもちゃの名前なのです。この絵のように、フラスコのような形をしています。軽く息を吸ったりはいたりすると、空気の出入りによってポコンとかわいい音が鳴ります。その音にならって、ぽっぺんなどと呼ばれました。

本図の子どもも、ほしかった「ぽっぺん」を買ってもらえたようで、うれしそうですね。素材はガラス(江戸時代にはビードロやギヤマンなどと呼ばれました)で、底はとくにうすく、せんさいなおもちゃです。

にもかかわらず、この子はずいぶんとごうかいにふき鳴らしています。タイトルに「さわき好さわぎずき」とあるように、にぎやかなことが大好きなのでしょう。左の女性も、はじめは「上手ね」とほめていたのかもしれません。でも余りのうるささに、こまっているようです。「そろそろやめてくれないかしら?」と言いたそうな表情が、コミカルですね。

ぽっぺんの音は、やっかいな物事を追いはらう効果があるともされました。ひょっとしたらこの子も、ぽっぺんのお礼に、何か願いをこめているのかもしれません。みなさんも、もし「ぽっぺん」で遊ぶ機会があったら、やさしく鳴らしてみてくださいね。

おもちゃを鳴らし遊ぶ子ども

当世好物八景 さわき好さわぎずき(喜多川歌麿)享和きょうわ頃(1801-04頃)

大人向け解説 

あなたは何がお好き?

恋に憧れるかれんな少女、新たな恋に悩む妖艶な既婚女性、子どもに愛を注ぐ母親。国内外を問わず人気の高い美人画の名手、喜多川歌麿(1753~1806年)は、女性のさまざまな感情を豊かに描き分けます。
「当世好物八景」は、8点の揃物です。2人ふたりの人物の半身像を巧みに組み合わせた構図は迫力たっぷりで、今も新鮮です。本図のほか、同様に女性と子どもを描く「出好でずき」、「ものずき」「子供ずき」の3点と、むつまじい男女を描いた「さけずき」、「はなしずき」、「たのしみずき」、「馳走ずき」の4点です。
お出掛けきのお母さん、妹を溺愛するお姉さん、話しきの恋人同士など、その姿はみな幸せそうです。皆さんも好きなもの、好きなことに触れる時間を、大切になさってくださいね。