No.33
藤澤紫先生浮世絵と遊ぼう
お江戸てくてく歩き

お天気の良い日にのんびりお散歩、楽しいですよね。きょうの主人公は、おしゃれをしてお出かけ中の仲良し姉妹。いったい、どこを歩いているのでしょう?

ヒントは、後ろに描かれた大きな橋とたくさんの船、遠くの江戸えどじょうと富士山。そう、ここは江戸の水運をつかさどる「日本橋」です。近くに大きな魚河岸うおがし呉服ごふくてんなどもあり、経済の中心地として、当時から活気あふれるエリアでした。お姉さんのふりそでにも「青海波せいがいは」という波のもようと、かわいい千鳥ちどりが描かれています。

唐子からこ」という独特の髪形かみがたをした妹が持っているのは、手足が動くからくり式の「やっこさん人形」です。実はこの人形にも、大切な意味があります。人形が手にした毛槍けやりという道具は、大名行列の先頭などでふり歩くもの。ここ日本橋は、「五街道ごかいどう」と呼ばれる主要な街道の出発点で、参勤交代さんきんこうたいで江戸をおとずれた諸国の大名らが行きかう場所でもありました。

奴さん人形をしたがえた少女は、りっぱな大名行列だいみょうぎょうれつの一行をまねているのかもしれません。確かに、堂々とした歩きぶりですね。楽しそうな笑い声が、絵の中からひびいてくるような、楽しい一枚です。

日本橋を散歩する姉妹

双筆五十三つぎ 日本橋(三代歌川豊国とよくに(歌川国貞)・歌川うたがわ広重)安政元年(1854)

大人向け解説

人気絵師のコラボ

江戸時代以降、出版文化の高まりと共に、実にたくさんの浮世絵師が作画に携わりました。特に19世紀以降、歌川派の活躍は目を見張るものがありました。
本図を手掛けた三代豊国とよくに、広重はとりわけ人気が高く、武者絵を得意とした国芳とともに、幕末期の浮世絵界を支えました。三代豊国とよくにが得意としたのは、動きのある役者絵や美人画、そして広重は詩情あふれる名所絵や花鳥画で名をはせました。
本図も、かわいい姉妹を豊国とよくにが、にぎわう江戸の景観を広重が描いています。実にバランスの良い仕上がりで、まさに息もぴったりといった様子です。このようなコラボレーション作品では、1枚で美人画と名所絵、さらに2人ふたりの人気絵師の絵柄を楽しむことができます。実にぜいたくですね。