
わいわい、がやがや、にぎやかな情景です。なんと、32人もの子どもたちが描かれています! よく見ると、羽織にはかま姿の少年や、美しい衣装に身を包んだ少女など、みな精いっぱいのおしゃれをしています。いったい、何をしているのでしょう?
開け放した部屋にかざられているのは、たくさんの習字です。そう、きょうは子どもたちの発表会。書き終えた漢詩や和歌などを貼り出し、勉強の成果を大人たちに見てもらう晴れの日です。
とりわけ大きな字で書かれているのは、「鶴」や「麒麟」といっためでたい生き物の名前です。福を願う「百福寿」なども見えますね。左側には天神様の絵においのりし、学問の上達を願う子どもの姿もあります。
手前で習字にトライしている2人にも注目です。右側の少年が書く「慎独」とは、中国の古典にあり、一人の時も行いを慎ように、との教えです。よほどがんばって勉強したのでしょう、友人が感心してながめています。左には、今まさに和歌を書き始めた少女もおり、きっと名作ができるのでしょうね。
中央のおくにいる男の子は、おいしそうな赤飯を食べていますよ。よく勉強をした子には、すてきなごほうびもちゃんと用意されているのですね。

幼童席書会(歌川国芳)天保13年頃(1842頃)

大人向け解説
親子で楽しむファッションショー?
時々、「浮世絵に描かれた人物は、みな似た顔をしていますね」とのご意見を耳にすることがあります。確かに喜怒哀楽を強調せず、時代の好みに合わせて理想化した人物像は、似て見えるのかもしれません。
とりわけ小さな子どもの顔は性差も判別しづらいのですが、衣装や髪形の描き分けにはこだわりが見えます。男女の別はもちろん、年齢や流行などを知る手だてにもなります。
本図の衣装にも、一つとして同じ組み合わせはありません。少女の着物には、ハマグリや千羽鶴などの吉祥模様のほか、当時最新の雪華模様や、臼ときねを組み合わせた季節感のある模様も配され、ファッションショーの一幕のよう。親も子も「あれがすてき」などと言いながら、楽しく浮世絵を眺めていたのでしょう。