No.36
藤澤紫先生浮世絵と遊ぼう
ときめきのひな祭り

♪あかりをつけましょぼんぼりに お花をあげましょ桃の花♪

みなさんもきっとご存じのこの歌詞は、「うれしいひなまつり」の一節いっせつです。主人公は、にこにこ顔の女の子。真っ赤な布を結んだ、「結綿ゆいわた」というかみがたがおしゃれです。いわゆる「ひな祭り」の準備をしています。

彼女かのじょきりの箱から取り出したのは、ひな人形。寸法も大きく、衣装いしょうもりっぱですね。きっとお気に入りの人形なのでしょう、男雛おびなの衣装をていねいに整える様子がかわいらしいですね。

これほどごうかなひなかざりがあるのですから、豊かな家のおじょうさんなのかもしれません。人形をかざり幸せを願うことから、近年はひな祭りを英語で「ドールズ・フェスティバル」とも呼んでいます。

ひな祭りのルーツは、古代中国の上巳じょうしの節句とされます。貴族や武家の風習であったものが、江戸えど時代には庶民しょみんにも広がりました。かつては人の形に切った紙で体をふき、水に流して身のけがれをはらいました。やがて人形をかざるようになり、特に女の子の幸せを願う日となったと言います。

よく見ると、彼女の衣装にもきくや梅、桐などのおめでたい文様が。幸せを願う気持ちは、いつの時代も同じですね。

ひな祭りの準備をする女の子

豊歳ほうねん 五節句あそび 弥生 〈桃の節句〉(歌川国貞)天保14-15年(1843-44)

大人向け解説

季節のファッション誌

特定のテーマで企画された「シリーズもの」は、いつの時代も人気があります。浮世絵にも、揃物そろいものと称される商品があり、コレクションして楽しみました。
本図も、豊歳ほうさい(作物などが豊かな年)を願う5枚組の揃ものの一枚です。人日じんじつ上巳じょうし端午たんご七夕しちせき重陽ちょうようの五節句がテーマで、女性を四季の暮らしと共に描きます。
季節に応じたおしゃれの提案はファッション誌のようです。少女も計算された装いで、美人画を得意とした初代国貞らしい、生き生きとした女性像が魅力的です。
題名も小袖の形をした枠内に配されています。傍らには、布製の花飾りも見えます。細部にまで行き届いた配慮が女性たちをさぞ引きつけたことでしょう。