
♪あかりをつけましょぼんぼりに お花をあげましょ桃の花♪
みなさんもきっとご存じのこの歌詞は、「うれしいひなまつり」の一節です。主人公は、にこにこ顔の女の子。真っ赤な布を結んだ、「結綿」という髪形がおしゃれです。いわゆる「ひな祭り」の準備をしています。
彼女が桐の箱から取り出したのは、ひな人形。寸法も大きく、衣装もりっぱですね。きっとお気に入りの人形なのでしょう、男雛の衣装をていねいに整える様子がかわいらしいですね。
これほどごうかなひなかざりがあるのですから、豊かな家のおじょうさんなのかもしれません。人形をかざり幸せを願うことから、近年はひな祭りを英語で「ドールズ・フェスティバル」とも呼んでいます。
ひな祭りのルーツは、古代中国の上巳の節句とされます。貴族や武家の風習であったものが、江戸時代には庶民にも広がりました。かつては人の形に切った紙で体をふき、水に流して身のけがれをはらいました。やがて人形をかざるようになり、特に女の子の幸せを願う日となったと言います。
よく見ると、彼女の衣装にもきくや梅、桐などのおめでたい文様が。幸せを願う気持ちは、いつの時代も同じですね。

豊歳 五節句遊 弥生 〈桃の節句〉(歌川国貞)天保14-15年(1843-44)

大人向け解説
季節のファッション誌
特定のテーマで企画された「シリーズ物」は、いつの時代も人気があります。浮世絵にも、揃物と称される商品があり、コレクションして楽しみました。
本図も、豊歳(作物などが豊かな年)を願う5枚組の揃物の一枚です。人日、上巳、端午、七夕、重陽の五節句がテーマで、女性を四季の暮らしと共に描きます。
季節に応じたおしゃれの提案はファッション誌のようです。少女も計算された装いで、美人画を得意とした初代国貞らしい、生き生きとした女性像が魅力的です。
題名も小袖の形をした枠内に配されています。傍らには、布製の花飾りも見えます。細部にまで行き届いた配慮が女性たちをさぞ引きつけたことでしょう。