No.38
藤澤紫先生浮世絵と遊ぼう
部屋にかざれるヒーロー

大きな橋に、ひらりと飛びのった男の子。刀を片手に戦っていますが、踊るようにかろやかです。かみを大きくゆった姿はかわいい少女のようですが、江戸っ子に大人気のヒーローです。さて、だれだか分かりますか?

答えは牛若丸です。源義経の子ども時代の呼び名で、物語や芝居にも登場する人気ものです。右の大きな人は武蔵坊弁慶、怪力の男性です。背中には「七つ道具」ともよばれるたくさんの武器が見え、強そうですね。

2人ふたりは橋の上で戦ったとのお話があり、若い牛若が勝利して弁慶は家来になったといいます。「牛若丸」の歌にも「京の五条の橋の上 大の男の弁慶は 長い薙刀ふりあげて 牛若うしわかめがけて切りかかる」とある名場面です。

実は、この浮世絵は端午の節句などにかざる「のぼり」になります。作り方は簡単。まず細い棒を長短2本用意して90度に組み、絵を左右に切ります。右に10個、上に5個ずつある白い小さな四角はのりしろです。細く切った紙を輪にしてのりしろに貼りながら、うまく棒に通すと小さなのぼりが完成します。

元気で力強い武者ののぼりは、子どもの成長を願う家庭にぴったり。みなさんも絵をコピーするなどして、いっしょに遊んでみませんか?

うし若丸と弁慶

うし若丸と弁慶(歌川国芳)天保頃(1830-44)

大人向け解説

魅力がいっぱいのおもちゃ絵

浮世絵にはさまざまなモチーフが描かれます。特に、おしゃれな女性やかわいい子ども、役者や武者、力士などの雄姿を描いた人物画が多くを占めます。次いで、優れた景観や歴史に名高い場所を描いた名所絵の人気が高く、美しい植物や愛らしい生き物に取材した花鳥画も好まれました。
近年特に注目されるのが、より実用的な浮世絵です。うちわや扇に貼って使ううちわ絵や扇面画に加え、今回の作品のように、遊べるおもちゃ絵も再評価されています。
切ったり貼ったりすることを目的に制作された作品ゆえ、失われることも多いのですが、公文くもん教育研究会のコレクションには希少な作例が多数あります。1枚の絵として鑑賞するもよし、完成した状態を想像しながら眺めるのも、一味違った楽しさがありお薦めです。