
大きな橋に、ひらりと飛びのった男の子。刀を片手に戦っていますが、踊るようにかろやかです。かみを大きくゆった姿はかわいい少女のようですが、江戸っ子に大人気のヒーローです。さて、だれだか分かりますか?
答えは牛若丸です。源義経の子ども時代の呼び名で、物語や芝居にも登場する人気者です。右の大きな人は武蔵坊弁慶、怪力の男性です。背中には「七つ道具」ともよばれるたくさんの武器が見え、強そうですね。
2人は橋の上で戦ったとのお話があり、若い牛若が勝利して弁慶は家来になったといいます。「牛若丸」の歌にも「京の五条の橋の上 大の男の弁慶は 長い薙刀ふりあげて 牛若めがけて切りかかる」とある名場面です。
実は、この浮世絵は端午の節句などにかざる「のぼり」になります。作り方は簡単。まず細い棒を長短2本用意して90度に組み、絵を左右に切ります。右に10個、上に5個ずつある白い小さな四角はのりしろです。細く切った紙を輪にしてのりしろに貼りながら、うまく棒に通すと小さなのぼりが完成します。
元気で力強い武者ののぼりは、子どもの成長を願う家庭にぴったり。みなさんも絵をコピーするなどして、いっしょに遊んでみませんか?

牛若丸と弁慶(歌川国芳)天保頃(1830-44)

大人向け解説
魅力がいっぱいのおもちゃ絵
浮世絵にはさまざまなモチーフが描かれます。特に、おしゃれな女性やかわいい子ども、役者や武者、力士などの雄姿を描いた人物画が多くを占めます。次いで、優れた景観や歴史に名高い場所を描いた名所絵の人気が高く、美しい植物や愛らしい生き物に取材した花鳥画も好まれました。
近年特に注目されるのが、より実用的な浮世絵です。うちわや扇に貼って使ううちわ絵や扇面画に加え、今回の作品のように、遊べるおもちゃ絵も再評価されています。
切ったり貼ったりすることを目的に制作された作品ゆえ、失われることも多いのですが、公文教育研究会のコレクションには希少な作例が多数あります。1枚の絵として鑑賞するもよし、完成した状態を想像しながら眺めるのも、一味違った楽しさがありお薦めです。