No.40
藤澤紫先生浮世絵と遊ぼう
人気ヒーローズ見参!

犬塚信乃、犬飼現八げんぱち犬山道節いぬやまどうせつ…。名前に「犬」の文字がつくかれらは、江戸えどっ子があこがれた8人の人気ヒーローズの一員です。

南総里見八犬伝なんそうさとみはっけんでん』は、江戸時代後期の小説家、曲亭馬琴が28年もかけてまとめた長編伝奇でんき小説です。舞台ぶたい室町むろまち時代の安房あわの国(現在の千葉県)。領主里見伏姫ふせひめと、不思議な力を持つ犬の八房やつふさ因縁いんねんで結ばれた八犬士が戦いの中でめぐり会い、やがて力を合わせ里見の再興を目指します。

特に美少年の信乃と力じまんの現八げんぱちが、芳流閣という架空かくうの建物の上で戦う場面は迫力はくりょくがあり、芝居しばい浮世絵うきよえにも好んで選ばれています。

右の色白の少年が信乃で、きりりとした顔立ちがすてきです。十手じってを武器に戦うのは大きな体で迫力たっぷりに描かれる現八げんぱち。見ているだけではらはらします。2人ふたりはもみ合いながら川に落ち、ぶねにゆられ流されてしまいます。

中国の人気小説『水滸伝すいこでん』などをベースに編まれたこの物語には、八つの異なる個性を持った勇者が登場します。そのコンセプトは、まるで現代の戦隊もののようです。みなさんも、なつかしのヒーローズを探してみませんか?

南総里見八犬伝の信乃と現八げんぱち

曲亭翁精著八犬士隨一 犬塚信乃きょくていおうせいちょはっけんしずいいち いぬつかしの  (歌川国芳)天保8年(1837)

大人向け解説

浮世絵と物語

「信乃は刀の刃も続かで、はじめ浅痍あさでを負ひしより、漸々しだいいたみおぼゆれども、足場をはかりて、たゆまず去らず…」
曲亭馬琴(1767~1848年)による『南総里見八犬伝』の芳流閣のシーンです。武術の達人犬飼現八げんぱちに刀傷を受けても、ひるまずに挑む麗しい剣士、犬塚信乃の戦いを華麗に表現しています。国芳の「八犬士」に物語を重ねると、場面の臨場感が一挙に増します。
馬琴は武家出身の読本とくほん作家で、本作執筆中に目が不自由になり、息子の妻に口述筆記させて完成に至りました。「芳流閣」の場面も声に出して読むと、実にリズミカルな文体だと気付きます。
作者の内なる声が物語となり、絵画化を通じて魅力を増す。その豊かな世界観は、時を超えて私たちをも魅了するのです。