No.45
藤澤紫先生浮世絵と遊ぼう
羽子板になったヒーロー

お正月にはどんな遊びを楽しんでいますか。ちょっとレトロなものだと、すごろくやこままわし、たこあげなど。羽根つきも、お正月らしい遊びですね。

今回の浮世絵は、羽子板の形をしています。羽子板にはしばしば愛らしい女性の姿が描かれますが、これはどうやら男性です。いったい、だれでしょう?

真っ白な歯を見せたさわやかなえがお、黒々としたかみをきりりとゆい、手には横笛を持つ貴公子。笛が得意な美少年といえば、そう、うし若丸です。金太郎と並ぶ、江戸時代の子どもに大人気のヒーローです。

タイトルの「押絵」とは、江戸時代にさかんになった手工芸で、布や紙、綿を用いた立体的な貼り絵です。人気役者をモデルにした押絵羽子板も作られました。

羽根つきは「追い羽根」ともいい、コン、コンと良い音がひびきます。悪い気をはらうとされ、江戸時代には庶民にも広まりました。ムクロジという植物のタネに鳥の羽をつけて打ち合いますが、ムクロジは漢字で「無患子」とも書き、子が病気にならないように、との願いをこめたそうです。みなさんも本図を切り取って、厚紙などに貼り、「マイ羽子板」を作ってみてはいかがでしょうか。

羽子板に描かれたうし若丸

押絵羽子板 うし若丸(歌川国芳)天保14年-弘化こうか3年頃(1843-46頃)

大人向け解説

新年をことほぐ浮世絵

本図の絵師である歌川国芳は、武者絵、美人画、名所絵、戯画など、さまざまな分野で頭角を現しました。染め物をなりわいとする家の出らしく、うし若丸の衣装にも、源氏げんじの家紋である笹竜胆文様を施すなど、細部にもこだわりが見えます。
羽子板は笏の形をした細長い板に始まり、扱いやすい現在の形に変化したと言います。絵画的な装飾を施し、縁起物として飾るようになりますが、そのデザインにも浮世絵師らが携わっていたとされます。
このシリーズには、魅力的な女性たちも描かれています。源義経(幼名・うし若丸)に愛された静御前、暴れうまを押さえた怪力の近江の勇婦ゆうふかね、俳人の秋色しゅうしきなど、人気のヒロインが当世風に美化されています。新春のワクワクする気持ちが作品からも漂ってきますね。