No.46
藤澤紫先生浮世絵と遊ぼう
人気ものの「成人式」?

新春の景を描いたはなやかな浮世絵うきよえ、青々とした若松と、清らかな水の流れが見えます。美しい女性たちが取り巻く中心に、男の子がいますね。まだ幼さが残る金太郎きんたろうです。男子が月代さかやきをそり、大人の髪形かみがたに改める、元服げんぷくという儀式ぎしきの最中です。

元服は、古代の中国にならい、公家くげ武家ぶけで行われ、やがて庶民しょみんにも広まりました。金太郎は大きな「まさかり」で、落ちる髪を受け止めている様子。きんちょうしているようにも見え、おもしろいですね。

実はこの絵は、平安時代の武将、源頼光に見いだされた金太郎が従者となる場面のパロディーなのです。右うえのおひめ様の衣装いしょうには、源頼光を暗示する「ささりんどう」の文様があります。女性の着物には四天王である碓井貞(さだみつの「さだ」、2人ふたりの女性の打ちかけにも渡辺綱わたなべのつなや卜部季武すえたけの「綱」と「末」の文字。強い武将を美しい女性に転じる点に、ユーモアが感じられます。

日本の「成年」は、明治9(1876)年以来20歳とされてきましたが、2022年4月に18歳に引き下げられました。江戸時代の男子の元服が15歳前後であったことを考えると、あながち、若過ぎるということはないのかもしれませんね。

金太郎の元服

金太郎元服の儀(歌川豊国とよくに)寛政期(1789-1801)

大人向け解説

歌川派隆盛の立役者

浮世絵の最大流派である歌川派、その隆盛のきっかけを作ったのが、本図の作者である初代豊国(1769~1825年)です。豊国とよくには歌川派の開祖豊春に師事し、幅広いジャンルの作品を手掛けました。
活動前期にあたる寛政期(1789~1801年)は、浮世絵の黄金期と称されるほど活況を呈していました。役者絵では東洲斎写楽、美人画では喜多川歌麿らの絵師が活躍しました。豊国とよくには流行を巧みに取り入れながら、幅広く愛される様式を構築したのです。
本図のすっきりとした立ち姿や、細かなポーズの描き分けにも、美人画や役者絵を得意とした豊国とよくにらしさが感じられます。豊国とよくには国芳をはじめ多くの弟子を育てました。金太郎などを勇猛に描いた国芳の作品にも、豊国譲りの人体描写が生かされているのでしょう。