No.47
藤澤紫先生浮世絵と遊ぼう
寒くても僕らは元気!

みなさんは、「初午」という言葉を聞いたことがありますか? 日本には古くから十二支にちなむ日付の呼び方があり、初午は2月の初めての「午の日」を指します。またこの日に、京都の伏見稲荷をはじめ、各地の稲荷神社で行われるにぎやかな祭礼も、こう呼ばれます。

今回の浮世絵も、このお祭りを描いています。ここは、江戸隅田川沿いにある三囲稲荷みめぐりいなり、真ん中に石の鳥居が見えます。この鳥居は低地にあり、対岸からはまるで土手にめりこんだように見えたと言います。人気のスポットで、初午の日には多くの人でにぎわいました。

鳥居を元気にくぐるのは、かわいい6人の男の子。今にも、にぎやかな声が聞こえてきそうですね。先頭の2人は、神様のお使いとされる白いキツネの人形を高くあげています。

右の2人ふたりは、大きな幟を持っていますが、鳥居をくぐれるのでしょうか? 後ろの子どもがせんすを手に、みちびいています。有名な歌舞伎役者が好んだ「三枡紋みますもん」のおうぎも、なかなかにおしゃれです。これから町をねり歩くのでしょう。

力を合わせて歩む子どもたちは、まさに今日の主役です。楽しい浮世絵の世界は、私たちにも元気をあたえてくれますね。

 

稲荷神社の祭礼

正一位三囲稲荷大明神しょういちいみめぐりいなりだいみょうじん勝川春章かつかわしゅんしょう)天明後期(1781-89頃)

大人向け解説

暦の不思議

旧暦を用いていた江戸時代の「初午」は、2月の下旬から3月の中頃といった、少し春を感じる頃に巡ってきました。
この子どもたちの装いも、現代の感覚で見るといかにも寒そうですが、旧暦の情景であることを考えると、少々納得がいくかもしれません。それにしても、裾をはだけて手足を出して、元気な様子ですね。
絵師の勝川春章かつかわしゅんしょうは、かの葛飾北斎の師で、役者絵や美人画といった人物画を得意としましたが、かわいい子どもを描いても天下一品です。加えて、景観表現にも長けていました。本図も自然な遠近法を用いた背景で、生き生きと遊ぶ子の姿が印象的です。隅々までじっくりと眺めると新たな発見があるのも、浮世絵の大きな魅力ですね。