No.48
藤澤紫先生浮世絵と遊ぼう
みなさまの幸せを願って!

ここは江戸えどの一室、家族が楽しそうにくつろいでいます。お母さんのうすい着物から、夏と分かります。庭先の笹の葉がさやさやとゆれて、すずしそうですね。すだれの前にあるはちには赤い花がさいており、みんなでていねいに育てているのでしょう。

お母さんがだいているのは幼い男の子、赤い腹がけをつけています。お母さんに、あまえているみたいですね。お姉さんが、「私もだっこしたい」とお願いしているようです。ふろしきから習字のお手本がのぞいており、寺子屋から帰ってきたところでしょう。

かわいいうちわの丸い模様はいったいなんでしょう? 答えは「サル」です。「くくりザル」というお守りで、子どもの身代わりとなって、悪いことから守ってくれると言われています。本図にたくさん使われている赤もまた、子どものまよけになるとされた色です。

将棋盤しょうぎばんや、孫の手も置かれ、日常の一コマといったふんいきです。今から250年以上前に、人気絵師の鈴木春信が描いた名品です。へいぼんな日常にこそ、豊かな幸せがあることを伝えようとしているのかもしれませんね。

江戸時代に愛された浮世絵うきよえには、たくさんの情報と、たくさんの暮らしのアイデアがつまっています。みなさんもどうぞ、これからももっと、浮世絵と遊んでくださいね。

家での母と子

夏姿 母と子(鈴木春信)明和4-5年頃(1767-68頃)

大人向け解説

浮世絵との出会い

柔和な表情と愛らしいしぐさ、鈴木春信が描く世界は優しさに満ちています。春信は、多色摺木ずりもく版画の新技法「錦絵」の誕生にも関わり、少年少女の恋物語や家庭の幸せな情景などを、洗練された色彩表現で鮮やかに描き出しました。
私が浮世絵の世界に深くはまったきっかけも、高校時代に出会った春信作品への憧れに始まります。また、公文くもん教育研究会の麗しいコレクションに関わるご縁を頂いたのも、春信研究の大家たいかである、大学時代の恩師との出会いにありました。
この連載を毎回楽しく執筆することができたのは、浮世絵の豊かな世界に魅了されているからです。