
今も昔も、踊りは人気の芸能です。特に江戸時代にはさまざまな踊りが流行し、少年や少女にも愛されました。
あわい黄色の背景に、ポーズをとった子どもが9人、かわいらしいですね。本図は有名な九つの演目をていねいに描き分けたもの。衣服もそれぞれちがい、みんなおしゃれです。
よく見るとそれぞれの絵の間に「十」の字に似た印が四つ。さて、これは何でしょう? 実は、この目印の線に沿って切り分けると、小さなカードになる仕組み。今のトレーディングカードのさきがけとも言えそうです。
いくつかの絵を見てみましょう。一番左の列の上段には、赤い髪のかつらをつけてぼたんの花を持ってまう子ども。「石橋」という演目で、子どもの獅子の精を演じています。
中段で、黒い玉手箱をかかえているのは、昔ばなしでおなじみの「浦嶌」。玉手箱を開けると、若者は老人になってしまいます。下段の左「手習子」に描かれているのは、振袖姿の愛らしい少女。左手に日がさ、右手には帳面を持ち、寺子屋の帰りです。当時の子どもには、親しみのある主題だったのでしょうね。
どの子の踊りに興味を持ちましたか? 気に入った絵があれば、切りぬいてかざってみてくださいね。

雅舞尽[稚舞尽](歌川貞升)天保頃(1830-44頃)

大人向け解説
愛らしい子どもの舞踊
江戸時代後期には、歌舞伎役者の弟子にあたる女性師匠が、舞踊を広く指南するようになり、それが現代の日本舞踊の始まりとされています。
本図に描かれているのはいずれも人気の演目で、右上から「朝妻」、「狂乱」、「汐くみ」、「鰹うり」、「道成寺」、「春駒」、「石橋」、「浦嶌」、「手習子」とあります。中央に描かれた道成寺は、中でも1番人気だったのでしょう。
大人の演目を子どもが演じる趣向はユニークで、同世代の子はもちろん、大人も思わず手が出るような愛らしい作品です。歌川貞升(生没年不詳)は大坂の浮世絵師で、役者絵が得意でした。小道具や衣装など、舞台さながらに描かれているのはさすがですね。