歩みと活動履歴

くもん子ども研究所の設立

1980年代前半、家庭内暴力や校内暴力の話題が日々のニュースをにぎわせるなど、日本の子どもたちを取り巻く環境は危機的な状況にありました。従来の教育や子育てのあり方が大きな転換を迫られる中、これらの問題に取り組むべく、公文教育研究会は1986年に「くもん子ども研究所」(理事長:公文毅、2005年まで活動)を設立。子どもの野外活動や文化活動、父親の育児参加の促進活動を行うとともに、子どもの生活実態調査や子ども史研究など、子どもをめぐる基礎的な研究活動を行うこととなりました。

世界の子ども研究における絵画史料への注目

近代以降の世界における子ども研究の状況は、<教育>の歴史については整理されていたものの、子どもの<生活>に触れた研究はほとんど行われておらず、また研究史料は文章史料に限られていました。しかし1960年、フランスの歴史学者フィリップ・アリエスは絵画に描かれた子ども像を研究史料に用い、中世ヨーロッパ社会における子ども観を明らかにした『<子供>の誕生』(日本語訳:みすず書房、1980年)を著します。その後もアニタ・ショルシュが絵画史料を用いた子どもの生活やイメージについての研究を発表(『絵で読む子どもの社会史』(1979年、日本語訳:新曜社、1992年))するなど、欧米においては絵画を用いた子ども研究が続きます。法律や制度といった為政者側の記録に偏りがちな文章史料に対し、一般庶民、特に子どもの生活や文化を知る上で、絵画が重要な研究史料となることが認知されるようになってきたのです。

浮世絵に描かれた子どもたちの「発見」

そこで、日本における近世の子ども観を浮世絵という絵画史料を用いて紐解くことで、現代の子どもにまつわる様々な問題の解決のヒントを見出すことができるのではないかというアイデアのもと、多くの研究者、専門家のご支援・ご指導をいただきながら、子ども研は浮世絵の収集と研究をスタートしました。 浮世絵は明治以降、世界中で広く知られるようになりましたが、評価されていたのは優れた芸術作品としての側面であり、注目されるのは美人画や役者絵、風景画などが中心でした。しかし浮世絵を市井の人々の生活を記録したメディアと捉え、浮世絵の収集・研究をはじめてみると、これまで注目をされることがなかった、子どもの生活や文化を描いた浮世絵が大量に「発見」されることとなり、その成果は「くもん子ども浮世絵コレクション」として結実していくこととなります。

公文教育研究会がこれまでに収集した子ども文化研究史料は、子どもや子ども文化が描かれた「子ども浮世絵」の他、寺子屋の教科書ともいえる「往来物」や玩具などを含め約3,200点。中でも約1,800点にのぼる「くもん子ども浮世絵コレクション」は、世界で唯一無二のコレクションとして知られており、現在も教育や育児、精神科学などさまざまな学問分野における研究素材として活用される一方、書籍や展覧会などを通じ、その収集・研究の成果を広く社会に還元しています。